京都会館は、24年度より大幅な建て替えを含む改修が計画され、それに反対する動きも生まれています。
前川國男氏の設計により1960年に建てられた京都会館は、府内唯一の2000席規模のホールとして様々な催しに利用されてきました。建設当時の市民から、数十万円の寄付金とともに市民ホールの建設を要望する署名が提出され、それを受けて「観光税」が創設されての建設でした。そのあたりの経緯は、京都市会の記録や「京都会館の5年」という本に詳しいです。
開館から50年以上経ち、「段差が多い等の不十分なバリアフリー対応」「防災設備の現行法への不適格」「舞台設備の老朽化」「トイレの不足」「会場規模や舞台設備を根拠として全国ツアーに利用されない」「舞台の奥行きが狭い」「レストランが2階なので利用しにくい」「券売所が屋外なので雨天時等に利用しにくい」「搬入や施設利用予約がしにくい」等の課題が指摘されていました。
これまでの経過ですが、まず2002年に耐震調査が実施され「一定の補強工事を実施することで,当時の耐震基準に適合する」との結果が出ています。
2004年度には「施設の劣化度調査」が実施され、設備や仕上げ材については劣化や老朽化が見られるが、「構造躯体は比較的良好な状態が保持されていた」との結果が出ています。また、同年策定された「京都市基本計画第2次推進プラン」に「京都会館の再整備構想の策定」(第2章第1節2。政策項目実施状況)が盛り込まれています。
2005年から2006年にかけて「京都会館再整備検討委員会」(京都会館再整備検討委員会の摘録)が設置され、「京都会館再整備の基本的な方向性に関する意見書」が取りまとめられました。再整備検討委員会には市民委員の公募(PDF:9.8KB)も実施されています。
2007年には「京都会館再整備構想策定に係る市民アンケート」が実施されました。このアンケートは、岡崎エリア及び文化芸術について、総合的多面的な設問が並び、京都会館の再整備計画については具体的な言及はありません。また、この年につくられた市の新景観政策により、京都会館の場所は15mの高さ制限が設定されました。
2009年には、これまでのアンケートや意見書等をもとに、「京都会館再整備基本構想素案策定調査業務」が日建設計大阪オフィスに外部委託されています。業務委託料は未確認ですが、仕様書では上限が3600万円となっています。契約は2010年3月末までです。この業務の成果である「京都会館再整備基本構想素案」は、ウェブ上では見つかりませんでした。
2010年には、「岡崎地域活性化ビジョン検討委員会」が設置され、京都会館を含む岡崎エリアのビジョン策定が進められました。
2010年12月13日の第3回のみに「オペラ」の文言がでてきます。(「第3回岡崎地域活性化ビジョン検討委員会」)これは、第2回までの検討委員会の議論をもとに検討委員会の下に作られた「作業部会」によって作成された「ビジョン(案)中間まとめ」案の中の表記についての意見です。その中間案に「世界一流のオペラの開催」という文言が出て来ています。(「岡崎地域活性化ビジョン(案)」中間まとめ(案))
吉永ゆうき的視点:京都市市民参加推進条例で審議会の議事録の作成及び公開が明記されているが、下部組織の部会の公開や議事録作成については明記されていない。これまで市のいくつかの審議会で、作業部会(もしくは作業PT)が非公開となっていた。
2010年12月24日の日経新聞夕刊に「京都に国内最大級オペラ劇場 市方針、事業費100億円」という記事が掲載されました。
吉永ゆうき的視点:この記事で唐突にオペラが出て来たと認識されている方もいるようだが、「オペラ」の文言は第3回の検討委員会で既にでていたので、この日経新聞の記事の注目すべき点は「事業費100億円」及び「13年度着工、15年度開業」だと感じる。
第3回までの検討委員会の議論をもとに、「岡崎地域活性化ビジョン(案)」中間まとめが取りまとめられ、2011年1月12日から2月10日までパブリックコメントが実施されました。パブリックコメントの実施結果)
2011年2月8日には、読売新聞と京都新聞にて、「京都会館」命名権を市内の半導体大手「ローム」に50億円で売却すると、市が発表した事が報じられています。上記岡崎ビジョンのパブコメでもそれに触れた意見が出ています。
2011年1月25日から2月24日に京都会館再整備についてのパブリックコメントが実施されました。(京都会館再整備に関する市民意見の募集資料及び京都会館再整備についてのパブリックコメント結果)
2011年2月23日には、2020年の京都の舞台芸術環境を考える会主催の「京都会館再整備に関する意見交換会」が開催されています。(ustreamその1、その2、その3)
2011年5月23日に「京都会館再整備基本計画案」の策定が広報されました。
2011年6月の市民しんぶんで「京都会館再整備基本計画」の策定が広報されました。
そして基本設計が香山建築研究所により開始され、同時並行で「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」が設置され、2011年10月4日に1回目の委員会が開催されました。
吉永ゆうき的視点:ロームとの契約の中で、意匠における条件はあるのか。なぜ基本計画案はA、Bの2案だけしかなかったのか。高さ規制に従って上に伸ばさず、地下に掘り下げる事はできないのか。
1回目の委員会も傍聴しましたが、既に第1回価値継承検討委員会の議事録や配布資料が公開されているので、傍聴レポートは省略し、以下の簡単な説明にとどめます。
価値継承検討委員会の委員は、まず大学のセンセイが3人。京都の建築家・建築士団体代表が2名。他に地元自治連合会会長、新国立劇場運営財団技術部長(欠席)。そして京都会館を設計した前川氏の前川建築設計事務所から所長が出席。基本設計を担当する香山建築研究所から所長と副所長も事務局側で出席。委員のうち2人は日本建築学会からの推薦です。
議論の材料が再整備基本計画と現物の京都会館しか無いため、「私はこういうスタンスで発言します」という表明と「京都会館のこういう点に価値を感じる」という発言がメインで、建物価値をどう継承するかについての踏み込んだ話は、多くありませんでした。また、2回目の委員会に、基本設計の途中経過の図面等が提出される事になりました。事務局からは「圧倒的に賛成をいただいている。誤って理解されている方にはきちんと説明していきたい」という発言もありました。
第2回京都会館の建物価値継承に係る検討委員会のレポートもお読みください。
最後に、2011年10月10日に京都会館第1会議室にて開催された「緊急シンポジウム:京都会館のより良き明日を考える -京都会館の適切な保存改修のために-」で話を聞いた時のメモより、印象的な発言をいくつか掲載します。2011年12月18日13時より京都会館会議場にて第2回のシンポジウムを開催するそうです。
「再整備計画には『自主制作はしません』とあるが、自主制作もしないホールは、巡回オペラから相手にされない」「ロームも1年1億円の運営費として命名権を取得しているが、京都市は建設費に使おうとしている。せっかくもらうのだから、運営費にまわしてもらえれば、市民も使いやすくなる。」「多面舞台ではない再整備計画では巡回オペラがこない事はロームもわかってるだろうに、何も言ってこないのは裏があるのではないか」「第1ホールは建て替え、第2ホールは耐震改修の上で保存なので、西側疎水沿いのひさしがどこかで途切れ、エキスパンジョン処理されると見られる」
posted by 吉永ゆうき at 22:06
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建築・景観